健康診断で尿検査の異常(蛋白尿・尿潜血)を指摘された
健康診断で、尿検査の異常(蛋白尿・尿潜血)を指摘された場合は、必ず腎臓内科で再度尿検査を行ってください。尿検査では、試験紙を用いて尿の中に蛋白、潜血、糖が含まれていないかをチェックします。
- 蛋白尿のみ陽性の場合
尿の中に蛋白が何グラム含まれているのかを検査します。0.15g/gCr以下の場合は、激しい運動後や発熱後に認められる生理的蛋白尿の可能性が高いです。0.5g/gCr以上の場合は、何らかの腎疾患が隠れているかもしれません。
他の病気にかかっておられない方であれば、慢性糸球体腎炎の可能性を疑います。高血圧を持病にお持ちなら、高血圧性腎硬化症、糖尿病の方であれば、糖尿病性腎臓病を考えます。
- 血尿のみ陽性の場合
血尿のみ陽性の場合は、原因となる血がどの場所から出ているのかを考えて検査をすすめます。尿を顕微鏡で観察し、血尿の原因である赤血球の形をチェックします。赤血球の形がいびつであるなら、腎臓から赤血球が漏れてくる慢性糸球体腎炎の可能性を考えます。赤血球の形が揃っているなら、腎盂、尿管、膀胱などからの出血を考えます。
この場合は、尿路結石や悪性腫瘍の可能性があり、腹部エコー、腹部CTなどの画像検査を追加します。また、悪性腫瘍の可能性を否定するためにも尿のがん検診である尿細胞診を追加します。
- 蛋白尿・血尿の両方が陽性の場合
蛋白尿・血尿の両方が陽性の場合は、第一に慢性糸球体腎炎の可能性を考え検査をすすめます。慢性糸球体腎炎は、長期の経過で徐々に腎臓の機能が悪くなり、最終的に人工透析や腎移植などの腎代替療法が必要になる疾患です。慢性糸球体腎炎の代表的な疾患はIgA腎症ですが、20年の経過で約40%の方に透析が必要となることが知られています。確定診断には、腎臓を針でついて顕微鏡で組織を観察する腎生検が必要になります。腎生検で病気の重症度を正確に判断し、口蓋扁桃摘出術や副腎皮質ステロイド薬の内服を組み合わせることにより、蛋白尿・血尿が改善する方も報告されております。
健康診断で腎機能の低下を指摘された
健康診断で腎機能の低下を指摘された場合、おそらく血清クレアチニンの値が高い、もしくは推定糸球体濾過量(eGFR)の値が低いことを指摘されたと思われます。クレアチニンは筋肉の老廃物で、全て腎臓から尿へ排泄されます。腎臓の働きが悪くなると、クレアチニンが尿へ排泄されなくなり、血液検査でクレアチニンの値が上昇します。クレアチニン値の正常値は男性でおよそ1.0mg/dl未満、女性でおよそ0.9mg/dl未満です。
しかし、クレアチニンが上昇することと腎機能が悪化することの結びつきが想像しづらいため、最近では推定糸球体濾過量(eGFR)をもって腎臓の機能を評価することが多くなってきました。正確ではないのですが、かみくだいてご説明しますと、推定糸球体濾過量(eGFR)は腎臓の点数が100点満点中何点かを表した数字になります。慢性腎臓病(CKD)の重症度も推定糸球体濾過量(eGFR)を使用して分類されており、G1が90以上、G2が60〜90、G3が60〜30、G4が30〜15、G5が15未満となっています。腎臓の働きが悪く健診で引っかかる基準は推定糸球体濾過量が60以下すなわち慢性腎臓病のG3以上となっています。
次に健診で引っかかる推定糸球体濾過量が60以下、すなわち慢性腎臓病G3以上にはどのような病気が含まれるのでしょうか。ざっくり分けると4つの病気に分類できますのでご紹介します。
- 慢性糸球体腎炎
蛋白尿血尿が認められ、徐々に腎臓の機能が低下してくる疾患
- 腎硬化症
高血圧や高コレステロール血症により、腎臓の血管に動脈硬化が発生し、腎機能が低下してくる疾患
- 糖尿病性腎臓病
血糖値のコントロールが悪いため、腎臓の血管が障害され、腎機能が低下してくる疾患
- その他、全身性疾患による腎障害、薬剤による腎障害、遺伝性腎疾患
全身性疾患による腎障害:
全身性エリテマトーデスによるループス腎炎、強皮症による強皮症腎、顕微鏡的多発血管炎などの血管炎による腎障害など。
薬剤による腎障害:
鎮痛薬、アミノグリコシド系の抗生物質、シスプラチンなどの抗がん剤による腎障害など。
遺伝性腎疾患:
常染色体優性多発嚢胞腎、ファブリー病、アルポート症候群による腎障害など。
大まかに腎機能障害の原因となる4つの疾患についてご紹介しました。これら4つの原因疾患では、治療方法や、腎臓の予後(今後腎機能が進行性に悪化するか否か)も異なります。
今後の治療方針を決定するため、尿検査、血液検査、腎臓の形を調べるための超音波検査、CT検査を実施して、どの疾患が腎機能障害の原因となっているのかを検討します。
尿の色や匂いがおかしい、尿の泡立ちが多い
このような場合は、尿検査で蛋白、潜血、糖、ビリルビンを調べることが重要になります。
尿の色が極端に黄色い場合には、尿中にビリルビンが含まれることがあり、肝臓病が発見されることがあります。匂いがおかしい場合には、尿沈渣で尿中の白血球を観察し、膀胱炎の有無をチェックします。尿の泡立ちが多い場合には、尿中に大量の蛋白がおりている場合があるため、尿蛋白の量を測定します。むくみや体重増加がある場合はネフローゼ症候群の可能性もあります。
排尿時に痛みの無い血尿がある
このように痛みを伴わない肉眼的血尿が認められた場合は、尿路系の悪性腫瘍、特に膀胱がんなどの可能性や、IgA腎症などの疾患の可能性を考えます。尿のがん検診である尿細胞診を行い、血液検査で腎機能障害がないかを確認します。肉眼的血尿が認められた50歳以上の男性の患者様は、泌尿器科へ紹介し、膀胱鏡や尿路の造影CTを依頼します。IgA腎症の患者様では、風邪をひいた後に、一過性に赤ワインやコーラ色のような尿が出ることがあります。この肉眼的血尿がきっかけでIgA腎症が発見される患者様もおられます。
あしがむくみ、体重が増えてきた
このような症状が出てきた場合は、ネフローゼ症候群という病気の可能性を考えます。
尿中に大量の蛋白が漏れ出てしまい、血液中の蛋白質が極端に低下します。このような状態を放置しておくと、全身へむくみが広がります。また、血液中の蛋白質が極端に低下した結果、血管の中に水分を保持できなくなり、腎臓への血流が低下します。その結果、尿が出なくなってしまい、さらにむくみが増悪します。腎生検などの詳しい検査が必要となるため、入院が可能な腎臓内科へご紹介させていただきます。
原因不明の倦怠感、疲労感がある
このような症状では、さまざまな原因が考えられますが、血液検査の結果で腎機能が極端に悪い場合、具体的には慢性腎臓病G4以上(推定糸球体濾過量 30ml/min/1.73㎡未満)の場合は、尿毒症や腎性貧血の可能性があります。尿毒症では、本来尿へ排泄される老廃物が腎機能が悪くなったため排泄できなくなり、倦怠感、疲労感の原因となります。
また腎臓ではエリスロポイエチンという造血ホルモンが産生されています。腎障害が進行するとエリスロポイエチンが産生できなくなり、貧血が進行します。その結果、倦怠感、疲労感を自覚するようになります。